ぎっしり詰め込んでるから伝わる書体。超極太の「ぎっしりフォント」

小さいころから絵を描くのが好きで、またパズルを解くのも好きでした。
コンピュータのプログラムを書くのもパズルを解くのに近い感覚です。

また、似顔絵を描くのもパズルを解くときと同じような脳の部分を使っているような気がします。
私の似顔絵は、写真のようにリアルな絵でも、アメリカのカリカチュアのように極端に誇張するものでもなく、なるべく少ない線で似せようとする「省略の似顔絵」でした。
そのため、目の位置などがちょっとでも違うと似ているものが似なくなったりするので、その調整がパズルを解くような気持ちでした。

文字のデザインも似顔絵を描くのと同じような感覚です。
似顔絵が写真と全然違うのにその人のように見えるのと同じように、文字も変形してもその文字に見えるのが面白かったからです。

文字のデザインで大きな影響を受けたのが、江戸文字・勘亭流・寄席文字などの日本の伝統的な文字と、1980～90年代にJ-POPのジャケットや雑誌のデザインをしていた染谷淳一さんです。

2016年から妻と二人で落語家の似顔絵の展覧会を開催していましたが、2020年から自分でデザインした文字を入れるようになりました。2020年の作品（「桂歌春＆田代沙織」や「三遊亭萬丸」）は、モロに染谷さんの影響です。
2023年の作品（「三遊亭歌奴」や「天中軒すみれ＆沢村理緒」など）で、「もしかしたらこの文字、フォントにできるかも」と思い、そこからフォント作りにハマります。

本業は、20年以上やっている似顔絵師です。
現在は東京タワーでお客様の似顔絵を描くことが多いです。

本業の合間にパズルの製作もやっています。
作るのは主にナンプレ（数独）で、雑誌に投稿したり、ネットで発表したりしています。
展覧会のときには、手作りのパズル本を作って売ったりもしています。

基本的な思想は、勘亭流や寄席文字と同じように「お客様がいっぱい来ることを願って隙間をなるべく小さくする」ということです。
デフォルトの字間・行間にしたときには、文字の中の隙間と文字と文字との間の隙間が同じ幅になるようにしています。
「口」などの文字の中に四角い隙間ができるのがイヤなので、斜めの線に置き換えたりしています。
「木」の上の部分などは、少しでも隙間をなくすように片側を斜めの線にしたりもしています。

それでも文字によっては、周りにどうしてもある程度隙間ができてしまうので、バランスをとるため、「口」の上などまったく隙間のないようにすることが可能な場合でも、わざとある程度隙間を入れたりしています。

隙間の幅は文字全体のサイズの30分の1です。
これは最初になんとなく雰囲気で決めたものなのですが、画数の多い文字でも大丈夫かとか、字を小さくしてもつぶれないかとかテストしてみて、結果的にこれがちょうどよかったみたいです。

収録した漢字は、常用漢字に加えて、現役の落語家、講談師、浪曲師、寄席色物の名前がすべて書けるようにしました。
私が寄席が大好きだからです。
演芸関係のチラシやポスターに使っていただけると、大変に喜びます。
自分たちの展覧会の中で、プロの噺家さんに落語をやっていただいたときは、このフォントを使って「めくり」（現在の出演者を示す紙）を作りました。

ぎっしりフォントの今後については、とりあえず、2025年に桂そうばさんが襲名した「桂惣兵衛」の「惣」の字がまだ収録されていなかったので、これは次のアップデートで必ず入れます。
それだけでは寂しいので、人名用漢字でJIS第一水準に含まれている字をカバーしようと考えています。
本業の合間にコツコツと作業するので、いつできあがるかわかりませんが、楽しみにしていただけると幸いです。